『羊毛市場だったステープル・イン』Staple Inn in London

「すばる会員」入会案内

 

作家・市川 昭子さんからシェア

76964_167531933281652_2262486_n.jpg市川昭子さん

 

 

 

 

 

 

 

《税の規約を制定した羊毛市場》

 

1455045_685626784805495_1389772000_n.jpg ロンドン羊毛市場

 

ステープル・インは、1887年から現在までアクチュアリー会(保険数理士クラブ)によって使用されていますが、前身は同地に1585年に創設されたグレイズ・イン法曹院(明日掲載を予定しています)の一部であり、法曹院の影も形もないそれ以前の1200年代には、開拓した周辺一帯に、羊毛市場が開かれていたのです。

当時、羊毛産業が盛んだった英国でしたから、売買をするバイヤーは花形の職業であり、誰もが憧れた世界でした。

また、ロンドンは当時も英国の中心をなす街だったことで、羊毛取引も国内随一のにぎわいを見せ、ロンドン近郊からだけではなく、遠くからもバイヤーたちが訪れ、市場に活気を呈していました。

そして、気がつけば周辺はバイヤーのための宿舎が増え、市場も徐々に大きくなり、一大商業区として発展していたのです。

★1200年代、この地を中心にして羊毛の売買が行われていましたが、バイヤーたちは売り買いだけの仕事ではありませんでした。

というのも市場で売買を始めたと同時に、市場の開設者への借地料などが派生したからです。

市場に混乱を招かないように、それを解決するために仕事の後、商人たちは集って議論をし、最終的にそれを“税”として納めるという規約を制定したのです。その税は仲買人としての手数料に比例して税額を決め、バイヤーが支払うべきとした公平なものでした。ですから、誰もが納得し規約に従ったことで、市場は粛々と日々を送ります。

そして、市場としての規模が大きくなるにつれ、また、時間の経過と共に「商人のコミュニティ」を創設する必要が生じてきたことで、1275年に羊毛の税支払い義務から派生して作られたのが、この“ステープル”だったのです。 

《註》ちなみに日本は鎌倉時代、北条時宗の頃です。1318年には後醍醐天皇が即位していますが、その後、1333年鎌倉幕府が滅び、数年後の1338年、足利尊氏により室町幕府が開かれます。その頃に、英国の一介の商人たちが“羊毛税”の綱領を作り世間に提示したのです。税金の仕組み、意味が何たるかをこの時代に呈した英国の商人たちが既にいたのです。

★いつから法曹界の関係する組織ががこの地に入ってきたかは明確ではありませんが、1415年には既に弁護士や学生たちによりによって使用されている、という記録が残されています。でも、1200年代には羊毛の税支払いを義務付けた規約、つまり“法律”のようなものをこの場所で制定しているのです。その頃からここには法曹界の世界が在ったのです。

その後、ステープルはグレイズ・イン法曹院に組み込まれ、1586年には裁判所に携わる人たちの宿と並行して法律実務につくためのプライマリトレーニングの学校“第三”の大学として設立されます。

★1666年のロンドン大火では延焼を免れたステープル・インでしたが、1756年にイン内で起きた火災で大きなダメージを受け、また、第二次世界大戦の爆弾によって破壊されもしたステープルですが、1954年の改修工事で1586年当時のヴィクトリア朝の建物に復元されて今に至ります。

★最寄駅はカムデン区ホルボーンを南北に通るキングスウェイと東西に通るハイ・ホルボーンが交わる場所にあり、ピカデリー線とセントラル線の列車が発着するホルボーン駅(Holborn station)です。

駅周辺には、大英博物館はじめ、リンカーンズ・イン・フィールズ、リンカーン法曹院、プルデンシャル保険(Prudential plc)本社、このステイプル・イン(Staple Inn)、そして、今人気注目度の高いSicilian Avenue(シチリア人街)など魅力あるポイントが点在しています。

★ステープル・インでランチを楽しんだ後、すぐ北に建つグレイズ・イン、そして、西隣のインナー・テンプルまで足を延ばしてみましょう。夕刻の教会の鐘の音を聴きながら、シティ・オブ・ロンドンの散策を思い切り楽しんでほしいのです。

周辺には英国らしいクラシカルで重厚な雰囲気が漂いますし、中世からの風の中に、シックで格調高いロンドンの素敵な今がここにありますから…。

素敵です…。

画像、記事の著作権は全て私に帰属しております。転載・転用、ダウンロードはお断りいたします。また、シェアに関してはこの限りではなく誰もが可能ですが、その場合、一言頂きたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。

(トラベルライター、作家 市川昭子著)

コメント

タイトルとURLをコピーしました