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早田孟宗のジレンマ
山形県で孟宗竹の筍産地と言えば湯田川が有名であるが、実は隠れた名産地がもう一つある。
それが鶴岡市早田(わさだ)地区。
目の前に日本海が広がり、山形県なのに雪がほとんど積もらないこの地区は、漁業と農業を季節によって働きわける半農半魚の生活がポピュラーであった。
ところで、早田という地名は早熟の稲を植えた田のことをいい早稲田(わせだ)とは同義。
作物の栽培に適した気候の土地であることを表している。
この地区の作物は評判がよく、早田地区からの農作物のおすそ分けに近隣地区の住民はそれだけで喜ぶほど。
早田地区の春の風物詩と言えばなんといっても筍。昔から早田の筍は重宝され、地元では早田孟宗と呼ばれ親しまれている。この筍の多くは急角度の山の斜面、立っているだけでもやっとの竹林から丁寧に掘り起こされる。
最大の特長はえぐみの少ないその味わいにある。通常、筍をゆでる際にアク抜きのため米ぬかや赤とうがらしが欠かせないが、早田孟宗には一切無用。そのため、ゆで汁を活用した筍料理ができ風味を逃さず楽しめる。
しかし、近年荒れてしまった竹林が散見されるようになった。
生命力の強い孟宗竹は放っておけば山をいくらでも侵食する。
こまめな手入れが必要で実は非常に手がかかる。加えて急斜面は百戦錬磨の生産者でさえ遠ざける。
このようにして生産者の高齢化と共に次第に衰退していった。
現在、早田地区ではその状況を打破するため、昨年から自治会長の本間廣光さんが中心となり期間限定の直売所を運営している。
国道7号沿いの直売所には「孟宗の里」と書かれた旗が数本たっており、評判を聞きつけた買物客が毎日訪れる。
加えて自治会では孟宗掘り体験イベントを企画し、生産現場を消費者に知ってもらう取組にも力を入れている。
また、あつみ温泉の老舗旅館 かしわや旅館19代目の主人はこの直売所に定期的に顔を出し早田孟宗を買い求める。
「地域の文化を守るために少しでも力になりたい」と早田孟宗づくしの限定プランを展開している。
地域の食文化を守るために「食べ支える」取組は始まったばかり。生産者の努力はもちろん必要だし、味も生産体制もさらなる高みを目指さなければ過去のものとなってしまうだろう。
しかし、地域に食べる喜びを与えてくれたこの食材に感謝し、繋いでいこうとする地元民の想いは強い。
愛される食材は岐路に立ちながらも発展の兆しを見せている。
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